◆ 慈雨


早朝の薄ぼんやりとした明かりに浮かび上がる殺風景なレンタルハウス。
細く開けた窓の隙間からはパタパタと不規則な雨音が聞こえてくる。

左半身に微かな寝息と温もりを感じ、俺はゆっくりと寝返りをうった。


こうしてイリスと同じ朝を迎えるようになってから、一月ほどが経つ。
最初はこの関係に戸惑いも多かったけど、今ではすっかり慣れてしまった。

間近で眠るイリスの前髪にそっと触れてみると、伏せられていた睫がパチリと開いた。


「あ・・・起こしちゃった?」
「いや、起きてた」
「なんだ、いつから?」
「ちょっと前」
「ふぅん」


伸びてきた腕に頭を抱えられるように引き寄せられ、そのまま胸元に閉じ込められる。
密着した肌で感じる体温と落ち着いた心音は、心地よく混ざり合って俺の中へと流れ込んでくる。


「まだ時間、早いだろ」
「うん」

「外、雨か」
「うん」


「もう寝ない?」
「なんか目、覚めちゃった」


「じゃぁ・・・・・する?」


俺の髪を弄んでいた指先がスルスルと降りてきて、腰の辺りをくすぐる様に円を描く。


「ねぇ・・・」
「うん?」

「男の尻になんか突っ込んで、気持ちいいの?」
「いいよ、お前はよくない?」
「・・・わかんない」
「いつもあんなに喘いでるのに?」

「だって、普通じゃないし」
「普通?」
「俺、男だし」
「知ってる」

「何で俺なの?」
「なに、後悔してる?」
「そういうわけじゃないけど・・・」
「けど?」

窓の外の雨音が少しだけ強くなり、遠くで雷が低く響いた。



「不安」



呟くように漏らした言葉に、イリスはもう「何が?」とは聞き返してこなかった。
ただ俺を包み込むように抱きしめて、優しくキスの雨を降らす。


「今日は一日中、部屋の中でゴロゴロしとこうか」


そう耳元で囁かれた言葉はややして穏やかな寝息に変わり、降り続く雨は一段と激しさを増してくる。




雨の日は嫌いじゃない。

不安も、焦りも、我侭も、全てを閉じ込めてくれるから―――。



Fin

*あとがき*
梅雨?をテーマにした短文。
今回は両思いのカポーを描いてみましたが、あんまり甘々な雰囲気にはなりきれなかったかなぁ。
どうもジタはラブラブ甘々なのは得意ではないらしい。
2009/7/6


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