◆ 聖なる夜に見る夢は ◆ No.4


目が覚めると見慣れたレンタルハウスの天井・・・でもどことなく雰囲気が違う。
はっ!となって勢いよく起き上がると、とんでもない場所に痛みが走った。
「っい・・・つ・・・!」
「無理をするな」
横から伸びてきた腕に肩を抱かれ、やっぱり夢じゃなかったんだと実感する。
「や・・・もぅ・・・勘弁・・・」
「大丈夫、もうしない」
男は額や目じりに優しくキスを落としながら、再び俺をベッドに横たえる。
「まだ辛いだろうから、しばらく休んでいくといい」
「お願い、もう見逃して・・・」
微妙に会話が噛み合っていない気もするが、とにかく俺はこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

「何か温かい飲み物でも持ってこよう」
苦笑いしながら男がキッチンの方へ消えたので、俺はようやく肩の力を抜いて改めて室内を見回した。
綺麗に片付けられた部屋の角には、可愛らしい3種のツリーが飾られている。
半強引に男を連れ込んで犯すような奴なのに、案外ロマンチストなんだな。なんて思っていたら、すぐに男がティーカップを持って戻ってきた。
手渡された白いカップには褐色の液体がゆれている。
ほのかに立ち昇るハーブの香りが、少し気持ちを和らげてくれた。


「このまま、今日も泊まっていかないか」
・・・は?
ありえない提案に驚いて男の顔を見ると、ヤツもまた真面目な表情でこちらを見ていた。
「彼女とは別れたんだろう?」
いや、だから・・・何でそうだって決め付けるんだ・・・
昨夜の酒場でのやり取りといい、そんなに俺はフラれ男に見えるのか?
再びムカムカと怒りが込み上げてきて、ギロリと男を睨み付ける。
「悪いとは思ったが、昨日教会の前でキミがフラれるところを目撃してしまってね」
・・・げ
「そのあと酒場へ行ったら荒れているキミを見かけたから、何とか慰めようかと思ったんだが」
・・・・・・・・;
「少し、予定外の展開になってしまったかな」
少し・・・どころの騒ぎじゃないですよ・・・・・・・

ヤツの話を聞いて一気に力の抜けた俺は、大きくため息をつきながら思い切り肩を落とした。
「すまなかったね」
もはや何に対してすまなかったのか全然わからなくなってきたが、とにかく俺がめちゃくちゃカッコ悪いのは確定的に明らか。
あぁぁ〜〜・・・何なんだよもう・・・最悪の星芒祭だ・・・
項垂れたまま手元のティーカップをじっと見ていると、男は俺のカップを取り上げテーブルの上に片付けた。

「ソレール」
・・・え?
突然自分の名前を呼ばれ、驚いて男の方に顔を向ける。
「実は私は、前からキミの事を知っているんだ」
「ぇ、な、なんで・・・」
慌てて記憶をたどってみたが、どうにも思い当たる節がない。
「以前、レベル上げのPTで2・3回組んだことがあるんだが」
あぁ・・・そりゃぁ野良PTなんて死ぬほど組んでるし、よっぽど印象に残る奴でなければ覚えていない。
つかぶっちゃけ俺は、人の名前と顔を覚えるのが苦手な方だった。
「その様子じゃ、全く覚えてないようだな」
「・・・・・」
なんだか申し訳ない気分になって、俺は男から目をそらして視線を宙に泳がせる。
すると男も視線を宙に移し、そちらへ向けて軽く手をさし伸ばした。

「おいで、ソレール」
男が小さくそう呼ぶと、輝く渦の中から青い子竜がフワリと現れた。
くるりと回転して甲高く一声鳴くと、パタパタと羽根を羽ばたかせながら男の側に着地する。
「この子も、ソレールと言うんだ」
擦り寄る子竜の頭を愛おしそうに撫でてから、男は俺の顔を至近距離から覗き込む。
「同じ名前、同じ真っ黒な瞳」
瞼に軽くキスをして、ぎゅっと強く抱きしめられる。
「ソレールが人に化けたら、きっとこんなだろうと想像していた」
うっとりとした様子で髪を梳かれて、なんとも居心地悪い状態に身じろぎする。

なにこいつ、飼い主バカ・・・?でも、ちょっとこれは危なすぎるだろう・・・;
危険な空気を感じて逃げ道を探していると、強くベッドに押し付けられた。
「別にキミをソレールの代わりにしようってわけじゃない」
鼻先が触れ合うほどの距離で見つめられ、そのまま深く口付けられる。
「っん・・・ぅ、ん・・・」
激しく口内を舐め回す舌は俺の思考を妨害し、だんだんと意識が朦朧としてくる。
「ずっと、気になっていたんだ」
一瞬唇を離してそう呟くと、再びキスで塞がれる。
飲み込みきれなかった唾液が口端から溢れ出し、トロリと線を引いて落ちていった。

「今年の星芒祭を一緒に過ごしてほしい」

待ってよ・・・なにこれ・・・
俺ホンキで口説かれてんの・・・?
もしそうだとしても、やること順番おかしいだろう・・・

言いたいことは沢山あったが、もう身も心も疲れきっていた俺は、何だかどうでもいい気分になっていた。

「ソレール、愛してる」

耳元で甘く囁かれ、ぼんやりとし始めた視界の隅で、白目のない黒い大きな瞳がじっとこちらを見ていた気がする――。



Fin

*あとがき*
クリスマス合わせで書いてて微妙に間に合わなかった短編エロ。
ちょっと危ないエル♂リューサンにタゲられたノンケのヒュムくんのお話でした。
立て続けに小説UPして疲れたので、今回は挿絵画像なしでスミマセン・・・
2008/12/28


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