◆ 聖なる夜に見る夢は ◆ No.2


ヤバイ・・・どう考えてもこの状況はマズイ・・・。

ベッドの前でへたり込む俺の横で、エルヴァーンの男は自分の装備を黙々と外していく。
「シャワー使うか?」
「ぃぇ・・・」
なにこのさっさとヤリましょう的な流れ・・・
いや、あのさぁ・・・もしそういう目的で誘ったとしても、もうちょっと雰囲気を作るとか、その気にさせる努力とかってのをしないわけ?
妙にイラっときて半裸のエルヴァーンを睨み付けると、張りのある形のいい筋肉が目に飛び込んできた。
・・・あぁそうですね、おモテになるエルヴァーン様はそんなサービスしなくても、ガンガン相手からアピールされちゃうから無問題なんですね。
なんだか僻みっぽい女みたいな思考回路になりながら、俺はこの場からどう脱していいのか分からずただ黙って座り込んでいた。


「どうした、緊張してるのか?」
不意に二の腕を掴まれ、有無を言わせぬ力でベッドの上に引き上げられる。
「ぅあっ・・・ちょっ・・・」
そのまま押し倒されて体の上に乗り上げられると、もう右にも左にも逃げる事ができなくなった。
「ま、ちょっまって!」
「なんだ」
「ぃ、いや・・・・・・・・俺を、どうする気・・・?」
この状況で何を今更な質問だと思うが、これしか言葉が出てこなかった。
「どうって、最初に誘ったのはキミだろう?」
あー・・・・ソウデスネ、まじ俺のバカ。何であんなこと言っちゃったんだろう・・・
つかまさか、こいつの方がガチホモでしたなんてオチ想像つかねーよ!!!
あぁぁあぁどうしよう・・・やっぱり【ウソ】でした【ごめんなさい】【許してください】って言うしかないか?;

何とか逃げる方法を頭の中でグルグルと考えていると、上着の裾から男の手か滑り込んできた。
「ぉわっ!」
「まさか初めてだなんて言わないな?」
くすくすと笑いながら首筋に舌を這わされ、全身に鳥肌が走る。
「っや、ちょ、お願っ・・・まって!」
必死で男の体を押しのけようと腕を突っ張っても、ただでさえこの体格差、それに加えて泥酔気味の俺では敵うはずも無かった。
まともに抵抗も出来ないまま、あっという間に全裸にされ、息も出来ぬほど深い口付けをされて声も出せなくなる。

何でこんなことに・・・・

極度のパニック状態と酸欠の息苦しさから、滲んだ涙が目じりから溢れ出す。
一度流れ出した涙は止まらず、次から次へと零れ落ちる。
あぁ俺って泣き上戸だったのか・・・つか、絡み酒でもあったよなぁ・・・
ポロポロと泣きながらも頭の中ではどうでもいい事を考えだしていて、もはやこれは現実逃避としか言いようが無い。


長い口付けから開放され、荒い呼吸で酸素を取り込んでいる頃には、もう抵抗する気力すら無くなっていた。
「すまない・・・少しからかい過ぎたかな」
目じりに溜まった涙を指で掬いながら、男は申し訳なさそうに眉を寄せて呟いた。
からかうって、何が・・・?
見下ろしてくる男に目だけで問いかけると、ヤツは薄く笑って俺の髪を優しく梳いた。

からかうって・・・もしかして、これも悪い冗談・・・?
仕掛けた俺よりも更に上をいかれただけなのか・・・?
確かに自分の行動を考えれば、やり返されたという可能性も十分に考えられる。
でも・・・いくらなんでもやり過ぎだろう・・・・・・

ホッと安堵する気持ちより、恥ずかしさや悔しさが上回ってみるみる顔が熱くなっていく。
そんな俺の心境を知ってか知らずか、男はゆっくりと顔を近づけ耳元で囁いてきた。

「たぶん、初めてなんだろうっていうのは分かってる。大丈夫、優しくするから」


Oh my god ...



一瞬浮かんだ希望も虚しく、今度こそ俺の貞操は絶体絶命のピンチを迎えるのだった・・・


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