◆ 聖なる夜に見る夢は ◆ No.1



「ごめんね、やっぱり何か違ったみたい」
「違ったって、なにが・・・」
「ホントごめんね」





彼女と別れた―――。
正確には「フラれた」って言うんだろうな。

世間では星芒祭のお相手探しで即席の愛まで囁かれるようなこの季節。
まさかこのタイミングでフラれるなんて思ってもいなかった。

昨日は彼女無しのフレの恨み言を笑い飛ばしたばかりなのに、今日は自分もそっち側って、何だよそれ・・・
つまりアレか?これはまんまと他の誰かに奪われたってことなのか?
あー・・・なんかカッコ悪ぃ・・・・・・
悔しさと情けなさで頭をぐしゃぐしゃに掻き毟りながら、空いたグラスを叩きつけるようにお代わりを注文する。

別に彼女の事がそれほど好きだったわけでもない。
ただ突然フラれたのが納得いかない、しかもこの時期に。
最初は向こうから告ってきたくせに、「やっぱり違ったみたい」って意味わかんねぇ。
ちっくしょう・・・俺はいま世界中で一番不幸だ。あ、いや・・・さすがにそれは言いすぎか。
じゃあジュノ中で・・・も、言いすぎかな。じゃあ上層中で・・・いやいや酒場内で・・・

グラグラする頭をぐるりと回して薄暗い店内を見渡すと、ポツリポツリと男ばかりが黙って酒を飲んでいる。
今日の日替わり酒場マーブルブリッジは「男性限定の日」。
普段ならこんなむさ苦しい日に足を運ぶことはまずありえないが、今日は女連れを見たくなかったし丁度良かった。

濃い目に頼んだ4杯目のスクリュードライバーを一気に流し込み、そのままテーブルに突っ伏する。
ぁー・・・なにこれ、自棄酒?まじダッセー・・・つか俺ちゃんと歩いて帰れっかな・・・

ひんやりとしたテーブルが気持ちよくて、顔を横に向けて頬をペタリと押し付ける。
すると、同じカウンターの少し離れた席に座っていたエルヴァーンの男と目が合った。
長いプラチナブロンドの髪を1つに束ね、彫刻のように整った顔でこちらを見ている。

いいよなお前らは、背が高くて彫が深くて、女になんて不自由してませんって顔しやがってよ。
でもなぁ、お前らは愛想がねーんだよ愛想が。澄ました顔して気取ってて、そのくせ態度がデカくて偉そうで。
どぉぉお〜〜〜にも気に入らねぇーんだよ、このダルメルがっ!!!

激しく八つ当たり気味に睨み付けてやると、エルヴァーンの男はニヤリと笑った。
「愛想がなくて悪かったね」
「・・・へ?」
え、うそ・・・俺、いま声に出して言っちゃってた・・・?;
驚愕のあまり全身硬直したまま何も言えずにいると、男は自分のグラスを片手に近づいてきた。
「隣、失礼」
そう言ってすぐ隣の席に腰を掛け、俺の手から空いたグラスを取り上げる。
「一杯ご馳走させてもらうよ、同じものでいいか?」
男は慣れた様子でスクリュードライバーを注文し、再び自分のグラスに口をつける。

「ずいぶんと荒れてるな」
「・・・別に・・・荒れて、ません・・・が」
気まずさで顔をテーブルに伏せながら、体と同様ガッチガチに硬くなった言葉を喉から搾り出す。
「失恋か」
「っち!がぅ・・・ます・・・」
反射的に大声で否定しそうになるのを必死に飲み込むと、男が軽く息を漏らすのが聞こえた。
「別に隠すことはない、私にだってそういう時もある」
うっわ!!今の一言ムカっときた。「こんなイケメンの自分でも失恋したことはある」とか言ってんの!?
くぁぁ〜〜〜!!ぜんっぜん慰まらねぇぇえ〜〜!つかめっちゃムカツクわぁああぁあ!!!

なんだか無性に腹が立った俺は、伏せた体勢からガバッと起き上がり、このイケメンエルヴァーンに向かって思い切り啖呵を切ってしまった。
「言っとくけど俺は!今、女とかには興味ねーの!あんたと一緒にすんじゃねぇえええええ!!」
その勢いに男は一瞬ポカンとしたような顔になり、それからすぐに怪訝な表情でまじまじと俺の顔を見つめてきた。
「女に興味がないという事は、つまりそっちの趣味だという事か?」

・・・・・・・???

この言葉の意味を理解するのに、ゆうに30秒はかかったと思う。
つまりあれだ。女に興味がない=男に興味がある=ウホッいいおとkうはwwwおkwwwww
っておkじゃねぇぇぇえええええええええ!!!!1!!11!!」」
俺的には『今は夢や目標があるから女に現を抜かしている暇はない』みたいなカッコイイ意味でいったつもりなのに、このクソヴァーンときたらとんでもない方向に勘違いしやがった!

しかし、そんな何ともいえない空気が流れる中で、俺はタチの悪い冗談を思いついていた。
このクソむかつくエルヴァーンの紳士様を、そっちの路線でからかってやるのも悪くないかも・・・/grin

すっかり悪酔い状態の俺は、隣に座るエルヴァーンに顔を近づけて厭らしい笑みを作ってみせる。
「そうだよ、俺はそうゆう趣味なの。何でわざわざ【男性限定の日】に飲みに来てると思ってんの?」
その言葉に男は驚いたような表情をしたあと、なにやら俯いて考え込んでしまった。
我ながら悪趣味な悪戯だとは思ったが、こいつの焦った顔が見たくて更に悪ノリを続けていく。
「あんた中々のイケメンだし、うかつに俺に声をかけると危ねーぜ?」
腹ん中で大笑いしながら、もうちょっと脅かしてやろうと男の方へ手を伸ばすと、突然ガッシリと掴み返されてしまった。

「なるほど、それなら話が早い」
「んぁ?」
「どうやって口説こうかと悩んでいたんだが、じゃぁまずは場所を変えようか」
「へ?あ、っと、ちょ・・・」
おそらく二人分の勘定をテーブルに置き、男はそのまま俺の手を引いて立ち上がる。
「待っ、って、うあっ」
完全に酔いが足に来ていた俺は、まともに立てずに大きくよろめいてしまった。
そんな俺を半ば抱えるようにして、男はズイズイと店を出て歩き始める。
「待てっ待てっ待てっ、どこ行く気だよっ!」
「私のレンタルハウスでいいかな」
いいわけねぇぇええーーーーー!!!

って、何この展開?つか、こいつさっき何て言った??
グダグダに酔いの回った頭では、状況を整理しようとしてもただパニくるばかりでどうにもならない。
ふらついた足元ではこいつにしがみ付いて転ばないようにするのが精一杯だし、結局なんの対処も出来ないままヤツの部屋まで連れ込まれてしまった。


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