◆ Sanctuary (聖域) ◆ No.1 |
深い霧に覆われた厳かな大森林、「聖地 ジ・タ」 そそり立つ巨大な針葉樹林の合間に、音も無く湧きいずる幾つもの泉。 それら1つ1つはとても小さく、しかし驚くほどに深い。 どこまでも透き通った湧水は、水底の青きクリスタルを映して虚ろに輝き、見るものを妖しく誘う。 その荘厳な光に満たされた聖泉の持つ意味は、神への禊か、粛清か―――。 ドプン・・・という音を立てて、また一人泉の中へ消えた。 傍らに仕えていた使い魔は、所在なさげに主の沈む方へと視線を下ろす。 ここは神へと続くサンクチュアリ。 不浄を祓い落とす場所。 突然飛び込んできた水音に、エルヴァーンの男は歩みを止める。 音のした方向へ目を向けると、1匹の魔物が溶けるように消えていった。 呼ばれるように引き寄せられ、泉を覗き込むと人影が揺れている。 男は手にしていた荷物を置き、すぐにその中へと飛び込んだ。 青い青い光のカーテンが、冷たい水底に降り注ぐ。 柔らかく揺れる髪や衣服は、男の身体を優しく束縛する。 静かに沈む人影に手を伸ばせば、ゆっくりと見上げる虚ろな眼。 抱き寄せるように引き上げた身体は、折れそうなほど儚かった。 「あんたは誰?」 救い上げられたヒュームの少年は、息を整えると静に問う。 「名も無き冒険者だ」 「じゃあ俺と一緒だね」 胸元の大きく開いた薄い赤褐色の装束は、おそらく獣使い専用のもの。 濡れた布地が肌に貼り付き、華奢な身体をより一層細く見せる。 「だから、この体も失くそうと思ったのに」 憂いを含んだ表情は、すぐに妖しげな笑みに塗り替えられて 「拾ったのはあんただよ」 深い闇色の瞳の奥に、薄紅色の光が揺らめいて見えた。 |