◆ 蛹 ◆ No.3


体力的にも精神的にも様々なものをすり減らし、なんとかバフラウ段丘でのレベル上げパーティーは終了した。
全てのメンバーが白門へ帰途したことを確認し、労いの挨拶をすませてパーティーを解散する。
西の空を赤く染めていた太陽も地平線の彼方へと沈み、ポツポツと灯りのともる露天を脇目にレンタルハウスのある居住区へと足を向けた。

今回のパーティーは本当に疲れた・・・。
早く部屋へ戻ってシャワーを浴びて、とりあえず軟らかいベッドに横になりたい。
胃の中はすっかり空っぽで空腹感が無いといったら嘘になるが、今は疲労感の方が大きすぎて食欲もあまりわかなかった。


重い足を引きずるように、普段よりやや遅いペースでレンタルハウスに辿り着いた俺は、倒れこむように室内に入り装備を脱ぎ捨てながらバスルームへと直行した。
少し熱めの湯を勢いよく頭から被り、バシャバシャと飛沫を上げながら体にこびり付いた汗と埃を洗い流す。
いつもならうちの口うるさいモーグリが、やれ服を脱ぎ散らかすなとか節水がどうのこうのとか一々文句を言いにやってくるんだが、先日「彼女のクピルルちゃんを助けに行くクポ!」とかよく分からんことを言ってモグハを飛び出していったきり、帰ってくる気配が無い。
確か俺にも宣託の間まで来て欲しいようなことを言っていたきがするが・・・・・まぁ、暇が出来たら顔をだせばいいだろう。

全身の汚れを洗い落とし、シャワーの湯で泡をキレイに流してから脱衣所に上がり、バスタオルで体の滴を軽く拭ってから頭にバサリをタオルを被る。
そのまま髪をガシガシと拭きながら寝室へ向かい、ベッドの側まで来たところで突然男の声がした。

「おかえりなさい」

はっとなって頭に被っていたタオルを慌てて外すと、目の前のベッドには先ほどパーティーを解散して別れたばかりの赤魔道士が座っていた。

「え・・・なんで」
「何度かノックしたんですが、反応が無かったので上がらせて頂きました」
「いや、でも、カギ・・・」

と、言いかけて思い出す。そういえば今はモーグリが不在だった。
いつもなら俺が帰宅したあとにキチンとモーグリが戸締りしているはずなんだが、今日はドアが開きっぱなしだったんだろう。
それで来客に対応するモーグリも居なく、俺もシャワー中でノックの音に気づかなかったのかもしれないが・・・だからって黙って人の部屋に上がり込むか?
そもそもコイツにハウスの部屋番号を教えた覚えもないし、ってことはつまり後をつけてきたってことになるわけで・・・昨夜の行動といい、今の行動といい、この赤魔道士に警戒するなというほうが無理な相談だった。

「しかし、裸でお出迎えとは大胆だね」
「!!」

言われて自分が全裸だったことを思い出し、慌てて持っていたバスタオルで前を隠す。

「ふ、風呂上りだったし・・・」
「そうですね」
「ひ、人がいるなんて、思わなかったし・・・」

別に俺が言い訳しなくてはならない立場でもないはずなんだが、恥ずかしさのあまりシドロモドロな弁解を口にしてしまう。
なんとなく居たたまれなくて視線を床に落していたら、急に男の腕が伸びてきて俺をベッドの上に引き倒した。

「わっ!」

驚いてすぐに起き上がろうとする俺の上に圧し掛かり、体重をかけてベッドに押さえつけてくる。

「や・・・ちょ、マジ何なの赤さん!」
「私の名前は赤さんじゃありませんよ」
「いや、ちょっ・・・」
「ねぇ、イツキ」

急に耳元で名前を囁かれてドキリとする。
普段、そのとき限りの野良PTでは、各メンバーの名前は「白さん」「シフさん」などのジョブ名で済ませてしまうことが多い。
いつもオートリーダーな俺としては「リダ」と呼ばれることが殆どなので、慣れない相手からいきなり名前で呼ばれることに緊張した。

「私の名前、覚えていますか?」
「ぁ・・・っと、その・・・」
「クレイグです、覚えてください」
「―ッん」

何か言いかけようと口を開いたところで噛み付くようにキスをされ、そのまま口腔を激しく舐め回される。
両腕を押さえつけていた手が胸や脇腹へ移動し始めたので、これはヤバイ!と、クレイグを激しく突き飛ばし・・・た、はずだった。


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