◆ In amber ◆ No.3 |
「で、そのお宝ってどんなのなんだ?」 「んー・・・まだ、俺の手に入っちゃいないんだがな」 「ふぅん、入手が難しいのか」 「いや、そんなこともない」 いまいち要領を掴めない話に首をかしげながらアトルガン茶葉をポットの中へ放り込むと、熱い湯の中で踊るように茶葉が広がり、ふわりと上品な香りが立ち昇ってくる。 自分で飲む時はすぐにこのまま注いでしまうのだが、味にうるさいフォルセールに文句を言われたくないので少し時間を置いて蒸らすことにした。 「ベリル、ちょっとこっち来な」 「なに?」 ベッドに腰掛け、チョイチョイと手招きをするフェルセールに近寄ると、急に腕を掴まれ至近距離まで引き寄せられた。 そのままガッチリと腰を抱えるように固定されたので、俺は全く身動きが取れなくなる。 「な、なんだよ」 「お前さぁ、手癖の悪さ、まだ治ってねーのか」 「は?何がだよ」 「うち(天晶堂)は色々と悪さもするけど、お客を騙しちゃダメだって教えたよなぁ?」 「・・・・・」 言いたいことは・・・すぐに分かった。 たぶん、琥珀をネコババした事がバレているんだろう。 いつから行動を監視されていたのか全く気がつかなかった俺も俺だけど、こいつの食えなさ加減は計り知れない。 じっと見つめてくる視線から逃れるように、琥珀を隠した右側のポケットへ目を落とすと、フォルセールの手がその中へと潜り込んできた。 「お宝見ぃーつけた」 嬉しそうにポケットの中の琥珀を転がしながら、ニヤニヤと俺の顔を覗き込んでくる。 「何か、言いたい事あるか?」 「別に・・・」 どうせ何を言ったって見なかったことにはしてくれないだろう。 俺がここへ飛ばされてきたのもちょっとした横領が原因だったし、今度はどこへ飛ばされるのやら。 全く進歩の無い自分を恨みつつ、投げやりな気分でため息をついた。 「覚悟を決めるのが早いのは感心だが、天晶堂に二度目はねぇぞ?」 「え・・・?」 少し凄みをきかせた声色にギクリとなって視線を合わすと、相変わらずニヤけた表情でフォルセールは言葉を続ける。 「同じミスを繰り返した者は、処分されるつってんだよ」 「処分って・・・」 その穏やかじゃない表現に、ヒヤリと血の気が引いていく。 「安心しな、殺しはしねーよ。お前も天晶堂の一員なら噂くらいは聞いたことあるだろ。うちは人身販売もしてるって話」 「あ、あぁ・・・」 「あの噂はなぁ本当なんだ。首を切った構成員も、普通に世に出て生活できねぇよう奴隷船に売っぱらわれる」 「・・・マジで・・・?」 「まぁ最終的な判断はボス次第だが、覚悟しておいたほうがいいぜぇ?」 こいつの話の半分は嘘だ。今までの付き合いでそれは十分わかっている。 しかしこの事をボスに報告されれば、必ず何らかの制裁はくらうだろう。 それにもしこの話が嘘じゃなかったら、今度こそ俺は処分されることになるはずで・・・ 「頼む、フォルセール。今回のことはお前のとこで止めといてくれ、ボスには内緒に・・・」 「俺に片棒担げってのか?そりゃ罪状追加だな」 「いやっ、違う、だから・・・」 何とか見逃してもらえないかと必死で言い訳を考えるが、中々いい言葉が見つからない。 その間もフォルセールの手はポケットの中をまさぐり続け、内腿のあたりを擦られるゾワゾワとした感覚が煩わしかった。 「ま、この件は正式な天晶堂への依頼じゃねーし、見なかったことにしてやってもいいんだけどな」 「え、ホントか?助かるよ・・・」 「でもお前の手癖の悪さは何とかしねーと、また同じことを繰り返すだろ?」 「い、いや、もうしない、約束する」 「信用なんねーな」 相変わらずポケットの中で動き回る指先が股間をかすめ、ピクリとなって息を呑む。 その様子を楽しそうに観察していたフォルセールがポケットから手を引き抜くと、そのまま強い力で俺をベッドに引き倒した。 「この際、売られた先でどんな扱いを受けるのか、しっかり教え込んでおいたほうがいーかもなぁ」 「だから、もうしないって・・・」 上から圧し掛かられるように押さえ込まれ、そのプレッシャーに身じろぎも出来ない。 「お前の体格じゃ力仕事には向かないだろうが、その手の客なら買い手が付きそうだよな」 「その手って、なに」 「んー?その手って言ったら、あっちだろ」 言いながら俺の両手を頭上で纏め上げ、腰から下げていた縄で手首を縛ると、余った縄をヘッドボードに括り付ける。 縛られて体の自由を奪われる不安に焦りを覚えたが、ここで抵抗してヤツの機嫌を損ねるのは得策じゃない。 大人しくじっと耐えながら様子を窺っていると、作業を終えたらしいフォルセールがニヤリと笑って頬を撫でてきた。 「金髪碧眼は高く売れるらしーぜ?」 そこでやっとこいつの言わんとしている事を理解した俺は、今度こそ全身の血が凍りつくのだった。 |