◆ In amber ◆ No.1


閑散とした辺境の町、ナシュモ。
人の数よりネズミの方が多いんじゃないかと思われるこの町は、あまり知られていないが実は意外と便利だったりする。
中央都市ジュノやアトルガン皇国と連携した競売所、各種ショップ、そして我ら天晶堂もこの地へ出店している。
更に冒険者向けのモーグリや宅配所までも完備しているのに、この利用者の少なさはやはり立地の悪さからだろうか。
ナシュモ支店に派遣されてから2ヵ月半・・・そろそろこの田舎くささに辟易していた。


「ほら、兄さんの番だぜ」
「あぁ悪ぃ」

この町は一般の冒険者に紛れてよくコルセアの一味が顔を出す。
奴らの本拠地があるというアラパゴ暗礁域から一番近い町だからだろう。
皇国に追われるお尋ね者たちだが、話してみると意外に陽気な奴らも多い。
こいつらは一様にギャンブル好きで、暇つぶしにこうやってカード賭博の相手をしたりもする。

「相変わらずこの町は寂しいな」
「まーな」

気のない返事を返しながら手元のカードを幾つか場に捨て、新しいカードを山から拾う。
ろくな役が揃わなかったがポーカーフェイスでやり過ごし、スキットルに入ったキツめ酒を口に含む。
チチチという鳥の鳴き声に誘われて空を見上げれば、きれいな青空が広がっていた。


「この勝負、もらった」

その言葉に視線を戻してみると、男はニヤリと笑って5枚のカードを広げて見せた。
不揃いな銀髪の合間から見せる鋭い視線は、勝利の余裕で楽しそうに細められている。

「マジかよ・・・」

覆せない大役に、しばらく硬直したあと大きくため息を吐き出した。
コルセアってのは運がなくちゃやってられない商売だとは聞いていたが、まさかここまで女神を味方につけるとは大したもんだ。
積み上げていた黄金貨を幾つか拾い、やれやれと肩をすくめながら男の方へと転がしてやる。

「おいおい、一桁間違ってるぞ」
「ぁん?」
「ラストゲームは掛け金十倍、それが最初の約束だぜ?」
「あー・・・」

って、待てよ・・・十倍ってーと明らかに手元の貨幣じゃ数が足らない。
部屋に残してきた金を足せばなんとか支払える額だったが、それじゃ当面の生活もままならない。
男の顔をチラリと見やり、機嫌が良さそうなのを確認してから交渉に出ることにした。

「悪いんだけど金が足りない、ここにある分だけで負けてくんない?」
「それじゃルールと違う、後になって変更は無しだ」
「でも無いもんは無いんだよ、これだけでも十分だろ?」
「兄さん、たかがゲームだからって舐めるなよ?」

エルヴァーン特有の彫りの深い顔で睨み付けられ、さすがにこれ以上の交渉は無理そうだった。
しかしこのままではこのコルセアも納得しないだろう。

「じゃー・・・さ、来週までに金は用意するから、今日のところは勘弁してくれよ」
「来週ねぇ・・・逃げたりはしないよな?」
「俺はここ常勤なんだ、逃げる場所もねえよ」
「そんならいいんだけどよ」

とりあえずこの場を切り抜けられたことに安堵し、さっさと撤収するため散らかったカードを掻き集める。
するとその腕を不意に掴まれ、強い力で引き寄せられた。

「もし来週までに用意できなかったら・・・覚悟しとけよ?」

くくっと喉の奥で笑いながら、耳元で低く囁かれる。
一見陽気に見えてもならず者のコルセアだ、下手に怒らせたら腕の一本や二本じゃ済まないのかもしれない。
背筋にゾクリと寒いものを感じながら、俺は黙って頷いた。


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