◆ Cherry ◆ Vol.1-2


「リュックはさ・・・・・」
 しばらく黙って酒を舐めていたラビが、静かに口を開く。

「キス、とか、したことあんの?」
「・・・は?」
「ないよな。お前、ずっと俺と一緒にいるし、女の影なんかなかったもんな」
「・・・・だからなんだよ」
「俺もないんだ」
 突然飛躍した話題に要領が掴めず、リュックは困惑した表情で話の続きを待った。

「もしお前が言うように、このさき急に死んじまうような事があったらさ、キスの一つもしたことないのを後悔するよな」
「・・・まぁ・・・そう、かも・・・な」
 相変わらず話の方向を掴みきれず、あやふやな返事を返す。

「だからさ、試してみようぜ」
「へ?」
「キス」
「誰と」
「俺と」
「誰が」
「お前と」
「・・・ぇ」

 突然の提案に思考が停止し、言葉の意味を理解した時には大声を張り上げていた。
「ありえねぇぇえ――!」
 大きく仰け反ったリュックにラビは詰め寄り、畳み掛けるように説き伏せる。
「いいか、聞け。どうせ唇なんて男も女もそんな変わるもんじゃない。ちょっと感触を試してみるだけなら、別に男だって構わなくね?」
「構うわ!」
「い〜じゃ〜ん、ちょっと試してみるだけ、な?」
 ふやけた笑顔で絡み付いてくるラビを押し返しながら、リュックは再び大きな溜息をつく。
「いや・・・お前、悪酔いしすぎ」
「酔った勢いでチューしてみようぜ〜。なぁ〜」
 しつこく迫るラビを宥めながら、やや自棄っぱちに酒をあおっていると、不意に耳元に息を吹きかけられた。
「うおっ!」
 驚いて飛びのくと、ラビはニヤニヤと笑いながら自分の唇を舐めて見せる。
 月明かりに照らされたその表情は、やけに妖しく艶かしく映った。


「・・・な?誰も見てないから・・・」











 青い、満月の夜。

 若い二人の好奇心は重なり合い、そっと確かめるように口付けを交わした―――。





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