◆ 赤の軌跡 ◆ Vol.3-2


張り込みの担当をパスさせてもらった私は、明日予定されているリンバスの準備のためジュノへと向かった。
リンバスエリアに突入するには、コズミッククリーナーという特殊な洗剤を用意する必要がある。
この洗剤はジュノ港で辻売りをしている女性から購入できるのだが、なぜか三日に一度、一回分つずつしか販売してはくれない。
毎回買い付けに行く手間を考えれば纏めて幾つか購入したいところなのだが、彼女に言わせると強力な洗剤なので複数所持するのは危険なのだそうだ。
ならば幾つも在庫を抱えている彼女自身は大丈夫なのか?というのは野暮な質問で、こうして頻繁に足を運ばせることが彼女なりの商売方法なのだろう。

いつものように辻売りから一回分の洗剤を購入し、レンタルハウスへ戻ろうと振り返った視界に赤いものがチラリと映る。
鮮やかな色のアーティファクト。
常日頃から見慣れているはずのその装備がなぜ目に付いたのかは、おそらく無意識に探していたから。
競売所のある地下からゆっくりと階段を上がってきた赤魔道士が、ふと顔を上げると黒い瞳が私を捉える。

レイだ―――。

まさかこんなにも早く会えるとは思っていなかった。
あまりにも唐突な再会に、全く準備をしていなかった私は何と声をかけたらいいのかパニックになり、その場で石化したように硬直してしまった。
まずは謝罪・・・いや、挨拶か。頭の中でグルグルと必死に言葉を捜している間、レイもこちらを見たまま固まっていた。

長い沈黙・・・・・実際にはそれほど時間は経過してないのだろうが、私には息が苦しくなるほど長く感じた。
ややしてレイがふいと視線を逸らしたのを合図に、私は弾かれたように声を発する。

「レイ!」

ピクリと肩を震わせて、再び彼の動きが止まった。
駆け足に近い速度でレイに歩み寄り、視線を落としたままの彼をじっと見下ろす。

「レイ・・・その・・・この前はすまなかった」
「・・・・・」
「あんなふうにキミを傷つけて、きっと嫌われただろうと後悔ばかりしていた」

せっかく彼に会えたのに、口を開けば言い訳しか出てこない。
そんな情けない言葉にも、レイは小さく首を振って私を責める様な態度は見せなかった。
レイは何を考えているんだろう? 私のことはどう思われているのだろう?
掴みきれない彼の心がもどかしくてたまらない。

「これから、どこかへ出かける予定だったのかい?」

その質問にレイはチラリとこちらへ視線を向けて首を振る。

「よかったら、お詫びも兼ねて食事でも奢らせてもらえないだろうか」
「・・・・・」
「本当に、キミには申し訳ないことをしたと思っている・・・簡単に口で謝って許されることではないとは思うが、それでも私はキミと親しくなりたいんだ」
「・・・・・」
「どうか、許してもらえないだろうか」

我ながらあまりの必死さに内心自嘲する。
つい最近出会ったばかりのヒュームの赤魔道士に、なぜここまで執着するのか自分でも分からない。
分からないからこそ、もっと知りたい、もっと近くに寄りたい、そう願うのだろうか。

「レイ・・・」

懇願するように語り続ける私に根負けしたのか、レイは少し困ったような表情を浮かべて頷いてくれた。

「ありがとう」

誘いを了承してくれたことに心から安堵して、被っていたデュエルシャポーを脱いで彼に一礼する。
とりあえず近場の店なら下層の酒場が手頃だろうと、私はレイをエスコートしながら下層へと足を向けた。





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