◆ 赤の軌跡 ◆ Vol.2-3


人の優しさには裏がある。いつのまにか、そんな邪推ばかりするようになった。
親切にされれば見返りを求められる。必ずしもそんな人ばかりではなかったけれど、そういう人間も多かった。
口の利けない自分と接触するという事は、健常者と接するよりも無駄な手間暇が必要になるわけで、相手にとって少なからず迷惑がかかることになる。
例え善意で手を差し伸ばしてくれる人がいたとしても、きっと俺なんかに関わらない方が面倒がないに決まってる。
いつしかそんな卑屈な考えに偏り続ける自分自身にも嫌気がさし、俺は一人で行動するようになった。




「お疲れ様でした」
「おつかれですー」

解散の挨拶が交わされて、先ほどまで一緒に行動していた後衛二人が立ち去っていく。
この流れに紛れて自分も姿を消してしまおうか・・・
そんなことを考えてソワソワと視線を泳がせていると、見透かされたように後ろから腕が伸びてきた。

「さてと、お前はまだやること残ってるよな?」

厭らしい笑みを浮かべた男三人に囲まれて、もう逃げ道はないのだと諦めの溜息が零れ落ちる。
彼らの要求は分かっている・・・分かっているけど従いたくない。
でも長年染み込まされた主従関係と、自分のハンデからくる負い目を考えると彼らに逆らう事はできなかった。

「とりあえず、お前の部屋いこうぜ」

有無を言わせぬ強い力で、グイグイと腕を引かれて歩き始める。
どんなに乱暴に扱われようとも、抗議の声を上げる事も、言い訳を語って逃げ出す事も出来はしない。
半ば引きずられるようにして居住区へと向かう足取りは、鉛のように重たかった。




「早く入れよ」

レンタルハウスのドアを開け、その先に進むのを躊躇っていた俺の背中を男がドンと突き飛ばす。
すぐに物音に気づいたモーグリが部屋の奥から顔を覗かせてきたけれど、後ろにいる男達の顔ぶれを見ると怯えた様子で引っ込んでいった。

「すっかり顔覚えられたみたいだな」
「物分りのいいブタで助かる」

ゲラゲラと笑いながら男達は部屋の中まで上がりこみ、重そうな武器や鞄を床の上に投げ散らかした。

「レイ、突っ立ってねーでこっちこいよ」

三人の視線が集中し、居たたまれない気分でおずおずと歩み出る。
男の一人が俺をベッドに押し倒したのを合図に、次々と乗り上げてきた男達が赤いアーティファクトを剥ぎ取っていく。
抗いたくても抗えない。抗ったところで敵うはずもない。
剥き出しになった肌の上を無遠慮な六本の腕が這い回り、屈辱と嫌悪感で息が詰まる。

「あれ、なにこの痕」

俺の身体の所々に散る、赤い小さな斑点を見つけて男が言った。
それはエドに付けられた痕跡。再び昨夜の記憶が蘇り、絶望的な気持ちになる。

「昨日も誰かとヤってたのかよ、レイちゃんエロイねぇ」
「そんなにセックスが好きなら、いつでも俺たちが相手してやるのに」

下卑た笑いを浮かべながら、男達は好き勝手な言葉を投げつけてくる。
でもどんなに揶揄されようとも、俺は即座に否定できる言葉を持たない。
ただ、グッと奥歯を噛み締めて、心と身体の苦痛をやり過ごす。

「そっち、脚もってて」

股の間に陣取っていた男が左右の男達にそれぞれ持つよう指示を出し、大きく折り曲げた脚を抱えられれば自然と腰が浮き上がる。 そんな体勢にされてしまうと、本来隠されているはずの場所まで全て丸見えになってしまい、自分の醜態を想像すると恥ずかしさで顔が熱くなった。
男の眼下に曝け出された陰部には、予め用意されていたような粘度の高い液体が大量に垂らされて、クチュクチュと卑猥な音をたてながら前と後ろを弄ばれる。

「すっげヌルヌル、かけすぎじゃね?」
「このくらいの方が楽しいだろ」

片手で性器を扱くように刺激され、もう片方の手で後ろの窄みを抉られる。
両側から俺を押さえつけている男達も、空いた手で胸の先端を摘んだり弾いたりしながら俺の反応を楽しんでいた。

「・・・ぅ・・・」
「ほら、声だしてみろよ」
「ぃ・・・ぁ・・・」
「こいつ、こういう時だけはちょっと声だすよな」
「ホントは喋れんじゃね?」

身体のあちこちを弄ばれながら、俺の上で好き勝手な会話が繰り広げられる。
俺だって別に、全く声が出せないわけじゃない。 ただ言葉に出来るほどハッキリとした発声が出来ないだけで、痛みを感じれば呻く事もあるし、擦れた声くらい出す事もある。

「もっと鳴かせてみようぜ」

調子に乗り始めた男達が、わざと追い立てる様に強い刺激を与え始め、ゾクゾクとした感覚がイヤでも身体を駆け巡る。

「・・・っは・・・」
「どうした、声だせよ」
「ぁ、・・・ん、ぅ・・・」
「もうちょっと派手に鳴いてくれた方が楽しいんだけどなぁ」
「いいよ、もう突っ込んじゃおうぜ」

散々中をかき回していた指が引き抜かれ、カチャカチャとベルトを外す音が聞こえてくる。
これから行われるであろう長い責め苦を想像して、俺は唇をギュっと噛み締めた。


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