◆ 赤の軌跡 ◆ Vol.2-2 |
船内に到着を知らせるアナウンスが流れ、一度大きな揺れを感じたあと飛空挺は停止した。 久しぶりに降り立ったジュノはとても賑やかで、その喧騒はモヤモヤとした気分を紛らわせてくれる。 一時期アトルガンへの航路が開放されたばかりの頃は、熟練の冒険者たちの殆どがそちらへ活動拠点を移していたけれど、最近はまたジュノにも活気が戻ってきていた。 飛空挺の到着ゲートを抜けて港から続く階段を上り、ブラブラと気分転換を兼ねて下層の街並みを眺めて歩く。 居眠りしながらバザーを広げている人、大声を上げてメンバーを募る人。沢山の人だかりで埋まる競売前を通り過ぎて、酒場のあたりまで来たところで不意に声をかけられた。 「あれ、レイじゃん?」 聞き覚えのある声にドキリとして視線を向ければ、やはり見知った顔の男が三人、肩を並べてこちらを見ていた。 「よう、久しぶり。最近見かけなかったけど、どこ行ってたんだよ」 「またどっか一人で地味なことでもやってたんじゃね?」 「暗いなぁ、冒険者ならもっと集団で何かするとかさー」 「無茶いってやるなよ、こいつ口が利けねえんだからシャウトにも乗れねーし」 「ホント不自由だよなぁ。俺なら冒険者やめちゃうね」 からかうような口調で饒舌に語る三人を前に、俺はただ黙って聞いているしかなかった。 彼らは孤児院時代の同窓生で、幼馴染と言えばそうなのかもしれないけれど、あまり関わりたくない人物だった。 「今から俺たちモブリンズメイズモンガーやるんだけどさ、お前どうせ暇だろ?」 「別に予定なんかないよな」 「これで赤確保だから、あと後衛二人か」 「俺、適当に叫んでくるよ」 「あぁ頼むわ」 三人の間で勝手に話は進み、そのうち一人が競売所の方へと駆けて行く。 「レイ、お前、コレやったことあるか?」 急な展開に戸惑いながら、俺は小さく首を振った。 多人数での攻略が必要な戦闘には、俺は基本的に参加しない。いや、『参加できない』と言った方が正しいかもしれない。 「そうだろなぁ、わざわざ口の利けないようなヤツ入れてもめんどくせーもんな」 「ま、普通に赤の仕事してりゃいいよ」 こうして時々彼らが声をかけてくれることで、普段なら経験することのできない戦闘にも参加できる。 それは確かに有り難い・・・有り難いけれど、そっとしておいてほしかった。 少年期における上下関係は、大人になってもそう簡単に変わるものではない。 俺は未だに、彼らの支配下から抜け出しきれずにいた。 「昔のよしみで、こうやって誘ってやる俺たちに感謝しろよ?」 「分かってるよな。この前のナイズルん時も、ちゃんと恩返ししてくれたもんな」 恩返し――、その言葉に体がビクリと萎縮する。出来ることなら今すぐこの場から逃げ出してしまいたかった。 でも、両側から挟みこむように肩と腰を抱かれてしまえば、身動きすることもままならない。 「なに硬くなってんだよ、緊張してんのか?」 「別にそんな難しいもんじゃねぇって」 「それとも・・・・・後のこと考えてえる?」 腰に回された手がスルリと下へ降りてきて、尻の肉をやんわりと掴まれる。 「心配すんなよ、そんな酷くしねぇから」 そう優しく耳元で囁かれても、その言葉は俺にとって恐怖以外のなにものでもなく、何故ここで彼らと遭遇してしまったのかと自分の不運を恨むしかなかった。 |