◆ 赤の軌跡 ◆ Vol.2-1 |
男に抱かれたのは初めてじゃない。 ただ、失望した―――。 人の優しさに期待などしてはいけないと、今まで散々思い知らされてきた筈なのに、どうして気を許してしまったんだろう。 あの男が本当に嬉しそうに、楽しそうに笑っていたから。俺の事を「友人」だと言ってくれたから。 たったそれだけの事で、俺は信じてしまったんだろうか。 (エド・・・) 心の中で彼の事を振り返りながら、腰に携えた蒼い細剣に手を添える。 長いこと薄暗い岩窟に篭っていたから、きっと心が弱っていたに違いない。 むせ返るほど暑いユタンガ大森林を、チョコボに跨り北へと進む。 もう少し行けば、若い冒険者達で賑わうカザムの門が見えてくるはず。 そこから飛空挺に乗ってジュノへ戻ろう。 消耗品を買い揃えて2・3日休憩したら、またどこかへ旅に出ようか。 陰鬱とした気持ちを振り払うように、俺は次の予定を考えることに意識を集中した。 カザムからジュノへと向かう午前の便は、利用者も少なく閑散としている。 ガランとした客室の隅に腰を下ろして、俺はボンヤリと考え事をしていた。 エドはどうして、俺にあそこまで関わってきたんだろう。 最初はただの気まぐれ、暇つぶし・・・それから哀れみ、好奇心・・・? 考えれば考えるほど暗い気持ちに陥って、弱者としての自分の立場を思い知らされる。 冒険者間でのコミュニケーションの主流は会話だ。リンクシェル然り、個人通信も然り。 でも音声による発言が出来ない俺は、直接目の前で筆談するか、手紙を送るしかない。 そんな面倒な手段しかもたない者を、快く迎えてくれる団体はそういないだろう。 声による意志伝達が出来ないというのは、冒険者にとって致命的といっても過言ではなかった。 それでも、俺は冒険者をやっている。 他に行くところがなかったと言うものあるけれど、これは俺の選んだ道なんだ。 俺は赤に―――赤魔道士になりたかった。 |