◆ 赤の軌跡 ◆ Vol.1-4


先にと勧められた私は浴室で簡単に汗を流し、レイと交代して荷物の整理に取り掛かる。 整理といっても特に何をしたわけでもないので、保存食袋の中からつまみになりそうなものを見繕ってテーブルに並べた。
ストーンチーズを小さく切り分け、グラスを二つ用意したところでレイが戻ってきた。 安宿の質素なバスローブ1枚の姿はひどく華奢に見えて、これが本当に成人男子なのかと正直疑問に思ったが、口にはしないでおいた。

「お奨めのワインを1本もらってきたんだ、せっかくだから頂こうじゃないか」

テーブルをベッドの側まで移動させ、自分はベッドの端に腰掛ける。 1人部屋なので椅子は1脚しか無く、ベッドと椅子とでは高さのバランスが悪いので、彼にも自分の横に座るようマットを叩いて促した。
レイは少し困った様子で腰掛けてから、テーブルの上の紙にペンを走らせる。

《俺、酒は弱いんで、迷惑をかけるといけないから遠慮したい》
「弱いって、全く飲めないのかい?」
《飲めないというか、すぐに酔いが回ってしまうから、飲みの相手としては勤まらないんで》
「ははは、なるほど、でも気にすることは無い。お互い疲れているんだし、寝酒として少しだけ付き合ってくれればいい」

お構いなしにグラスを押し付け半分ほどワインを注ぎ、自分のグラスにも手を伸ばす。

「新しい友人に、乾杯」

カチンと軽くグラスをあて、赤い液体を口の中へと流し込む。上物とは言い難いが、確かに口当たりの良いワインだった。
チラリとレイに目をやると、彼も一瞬こちらを見てからおずおずとグラスに口をつける。

「どうだい、飲めるかい?」

コクリと頷き、再びグラスに口をつける姿を見て安心した。どうやら酒が嫌いというわけではないようだ。
私はグラスに残ったワインを空け、新たに注ぎ足して存分に味わう。
何故だかわからないが実に気分が良い。昨日までの毎日にすっかり嫌気がさしていたのに、今はこんなにも穏やかだ。
もう酔いがまわったんだろうか?それともレイの影響か。とにかく今日の出来事は、煮詰まった私の日常に一陣の風を吹きかけてくれた。

しばらくLSを離れ、レイに倣ってソロ活動でもしてみようか。
そんなことを考えながらグラスの水面を眺めていると、ぐらりとレイの体が寄りかかってきた。

「ん、どうした?」

だるそうに頭を振って体を起こすレイの手からグラスを取り上げテーブルに置き、自分もグラスを置いてからレイの顔を覗き込む。
頬を上気させ、耳を真っ赤にしたレイの瞳は眠たそうに潤んでいて、これは完全に出来上がっている様子だった。

「だいじょぶか?もう寝とくか?」

あまりの酔いの早さに少々面食らいつつ、レイを横にさせようとしたが払いのけられてしまった。
彼の手はテーブルの上のペンを探して彷徨い、グラスに当たって派手な音を立てる。

「いいから、もう寝ておけ」

体ごと強引に引き戻してベッドに沈め、上から圧し掛かるようにして言い聞かせる。
レイはしばらく私の下でもがいていたが、やがてバツが悪そうに顔を背けた。
その白いうなじにドキリとする。
視線を下ろせば、乱れたローブの合わせ目からほんのりと色づいた肌も見える。

なんだ、この感情は・・・?

自分でも意識する前に、私の指はレイの肌に触れていた。


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