◆ 赤の軌跡 ◆ Vol.1-1


特にこれといった目的はなかった。
集団での激しい戦闘に疲れ、しばらく一人でブラブラしたい・・・そんな心境。
昔馴染んだ釣り道具を引っ張り出し、人里はなれた辺境の地「海蛇の岩窟」まで足を運んだ。

ここの池ではネビムナイトがよく釣れる。競売に流せばそこそこの稼ぎになるし、自分でインクを作ってもいい。
しばらく釣り糸をたらしながらボンヤリ過ごせば、少しはリフレッシュもできるだろう。
そう考えて赴いたこの場所に、予想外の光景が広がっていた。
異様にガタイの良いマンタに追い回されているヒュームの赤魔道士。
いや、追われているというより引き回しているんだろう。
池の周りをグルグルと走りながら、時々バインドを唱えて足止めをしている。

なるほど・・・ジュワユースか。

しかしこのノートリアスモンスターはもっと岩窟の奥深くに生息するはず。
よくもこんな手前まで引っ張って来れたものだと、私は驚きと感心の思いで彼の姿を眺めていた。

過去に私も同じ赤魔道士を生業とする者として、このモンスター「Charybdis」と戦ったことがった。
しかしその時は複数の仲間が共に居たので、それほど戦闘に苦労した記憶はない。
どちらかといえばコイツが出現するまでの待ちの時間の方が辛かったくらいだ。
ひたすらスリップを切らさず入れ、何時間も走り続けて倒すつもりであろう彼のやり方とは全く違う。
一瞬の気の緩みが命取り・・・そんな緊張感を保ちながらどれだけの時間を走るのだろう。
無謀とも言える挑戦を続けている赤魔道士の姿に目を奪われ、私はしばらくその場で観戦していた。



ごく僅かずつではあるが、確実に敵の体力は減ってきている。
しかしこの持久戦は、走り続ける彼の体力をも奪っているだろう。
さすがに走る動きに疲れが見え始めたころ、距離をつめてきたCharybdisのインクジェットが彼を直撃した。
視界を奪われ、転倒した彼にそのままCharybdisが襲い掛かる。
みるみる体力が削られていく状況を見ていられず、私は思わず叫んでいた。

「加勢する!パーティーに誘え!」

しかし、攻撃を受け続ける彼からの返答はない。ライバルと誤認して警戒されているのだろうか。
彼が倒れぬよう必死でケアルIVを唱えていると、無言でパーティーの誘いが来た。
私はすぐにパーティーに入り、連続魔を発動してCharybdisにスリプル2を叩き込む。
連続で唱え続けたスリプル2とケアルIVのヘイトにより、Charybdisのターゲットが私に向いた。

「しばらくは私が引き受ける、キミは隅のほうで休んでいるといい」

バインドを唱えて距離をとり、先ほどまでの彼のやり方に倣ってマラソンを開始する。
正直私はソロ活動が苦手だった。苦手というより、ほとんど経験がないと言った方が正しいか。
今まで常にどこかのLSに所属し、何をするにも集団で行動していた。
そういった人間関係や団体活動に煩わしさを感じることもあるが、それ以上の便利さがあった。
彼には助けを呼べる仲間が居ないのだろうか?
そんな余計な心配をしながらチラリと彼の姿を探すと、タコの墨で汚れた顔をゴシゴシ擦りながら座り込んでいる。

順番にヒーリングしながらMPに余裕を持たせれば、多少は精霊で削ることも出来るだろう。
そうすればもっと短時間で倒せるはず。
私は作戦の変更を提案しつつ、彼が回復するまで池の周りを走り続けた。





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